複眼養成道場

エニアグラムの「健全度」とは何か

「タイプ診断受けたけど、説明が全然自分じゃない気がする」っていう人、めちゃくちゃ多いです。その感覚は正しいです。そもそもエニアグラムのタイプ確定は構造的に難しいし、その難しさを増やしている大きな要因のひとつが「健全度」という軸の無視。この記事ではその話をします。

前提:タイプ確定はそもそも難しい

先に身も蓋もない話をします。エニアグラムのタイプ確定は、初見の人がWEB診断をポチッと押して「はい確定」となるような代物ではありません。 構造的に難しい。

理由をざっくり並べるとこんな感じです。

(これらの全体像は「エニアグラムのタイプ診断はなぜ難しいのか」で詳しく扱っています。)

この記事で扱う「健全度」は、その難しさの中でもとくに見落とされやすい軸です。タイプ診断で「あなたはタイプ○○です」と出たときに、「いや、自分そんな人間じゃない」と感じる一番の原因が、たいていこれ。知っておくと、診断結果との向き合い方がぜんぜん変わります。

同じタイプでも、別人くらい違う

まず結論から。健全度が違うだけで、同じタイプの人が別人レベルで違って見えます。例として、タイプ8(挑戦者)を3段階で並べてみます。

健全な
タイプ8
正義感が強く、弱い立場の人を守る。権力に屈しない。自分の弱さも認められる。強さを人のために使える。
通常の
タイプ8
仕切りたがる。自分の流儀を押しつけがち。やや強引。弱さは見せたくない。人を従えることで安心する。
不健全な
タイプ8
復讐心。力でねじ伏せる。共感の回路が閉じる。自分にも他人にも容赦がなくなる。暴君化する。

これ、全部同じタイプ8です。動機は同じ(弱い立場に立ちたくない)。出方が違うだけ。

ちなみに「挑戦する人」みたいなニックネームは、だいたい通常レベル(囚われが動いている平均的な状態)の振る舞いから名付けられている。だから健全寄りのタイプ8や不健全寄りのタイプ8には、そのイメージは噛み合いません。エニアグラムでタイプを数字で呼ぶのが基本なのは、こういう幅をラベルで潰さないため、というのもあります。

で、タイプ診断で「あなたはタイプ8です」って出たとき。普段の自分が通常〜不健全寄りだったら、健全な説明を読んで「いや、僕そんな正義の味方じゃないし」となる。逆に健全寄りだったら、通常の説明を読んで「いや、そんな仕切り屋じゃない」となる。

どっちも、たぶん当たってます。ただし、どの健全度を見ているかで、見え方が違う。それだけの話です。

健全度とは何か

Riso & Hudson という人たちが整理した、同じタイプの中での「状態の幅」を示すモデルです。ちゃんとやると9段階に分かれるんですが、細かく覚える必要はない。ざっくり3層でいい。

数字は便宜上のもので、順位じゃなくてグラデーションだと思ってください。

Level 1–3 健全 Level 4–6 通常 Level 7–9 不健全 囚われから自由になっている 本質に近い状態 日常的な自動操縦 大半の時間はここ 囚われが強く出ている 自分も周りも苦しい
健全度の3層モデル — 行き来するグラデーション

「ストレスで人が変わる」の正体

よく「あの人、ストレスで人が変わった」って言いますよね。あれ、タイプは変わっていません。変わっているのは健全度です。

タイプは「傾向」で、健全度は「コンディション」です。タイプ3の人がストレスでダウンすると、タイプ3の不健全な姿が出てくる。別のタイプになるんじゃなくて、同じタイプの別の層が出てくる。

体調が悪い日も健康な日もある。でも体はずっと自分のものです、みたいな話。健全度が下がった自分も、上がった自分も、同じタイプの自分。

ストレスが深まると、別のタイプの顔が出る

ここ、さらにややこしい話をします。健全度が下がるとき、ただ自分のタイプの不健全面が出るだけじゃないんです。特定の別タイプの不健全面が借りられるような現象が起きます。

エニアグラムには「矢印(方向性)」という概念があって、各タイプには2つの方向があります。

タイプストレス方向(追い詰められると)成長方向(健全になると)
14の不健全面:自己憐憫、「誰もわかってくれない」7の健全面:楽しめる、力を抜ける
28の不健全面:攻撃的、「こんなにしてあげたのに」4の健全面:自分の感情に正直になれる
39の不健全面:無気力、何もかもどうでもいい6の健全面:チームに誠実、弱さを見せられる
42の不健全面:おせっかい、相手に依存する1の健全面:規律を持って行動できる
57の不健全面:刺激を求めて散漫になる8の健全面:行動に踏み出せる、力を使える
63の不健全面:虚勢を張る、表面だけ取り繕う9の健全面:落ち着く、他者を信頼できる
71の不健全面:批判的、完璧主義的になる5の健全面:深く留まれる、一つを掘り下げられる
85の不健全面:引きこもる、感情を遮断する2の健全面:他者を思いやれる、寛大になる
96の不健全面:不安でパニック、被害妄想3の健全面:自分から動ける、目標を持てる

「普段は穏やかなのに、追い詰められると急に攻撃的になる」── タイプ2がストレスでタイプ8の不健全面に移動している、と読める。「普段は正しさに厳しいのに、リラックスすると急に遊び心が出る」── タイプ1が健全化してタイプ7の健全面にアクセスしている、と読める。(矢印の仕組みをもっと詳しく知りたい方は → 統合と分裂

で、これが診断をさらにややこしくします。ストレスで出てる顔を見て「自分は〇〇タイプかも」と思っちゃうんです。本当のタイプはその矢印の根元なのに。「追い詰められたときに出る姿」と「本来のタイプ」は違う。これを混同すると、診断が迷子になります。

逆に言うと、「自分はこの矢印の先の顔をする瞬間があるな」という手がかりからタイプを絞り込むこともできる。ストレス時にやたら引きこもるなら、もしかしたらタイプ8かもしれない(→5の不健全面)。ストレス時にやたら虚勢を張るなら、タイプ6かもしれない(→3の不健全面)。

解説記事のタイプ別イメージは、健全度高めに書かれがち

ここ、けっこうな落とし穴です。

エニアグラムのタイプ別解説って、健全度そこそこ高めを想定して書かれていることが多い。なぜかというと、そのほうが「素敵そうに見える」から。「タイプ2は人を愛する優しい人」って書くと美しい。でも通常〜不健全寄りのタイプ2は、「恩を着せる/尽くしすぎて裏で見返りを求める」みたいな出方もします。

だから、診断結果を読んで「こんな綺麗な人じゃない、自分は」と思ったら、それは診断が外れているわけじゃなくて、通常〜不健全度の自分を見ているだけかもしれない

逆もあります。「こんな酷いこと書かれてる、自分そんなんじゃない」と思うなら、解説が不健全寄りで書かれているか、自分が健全寄りで過ごしているか、どっちかかも。

自分のタイプが嫌いな人へ

これが一番言いたかったこと。

「エニアグラム診断したけど、自分のタイプの説明が嫌い。認めたくない」っていう人、わりといます。

でもそれ、よく話を聞くと、不健全度のときの自分に嫌悪感を抱いているケースが多い。そのタイプの健全度のときの姿を読むと、「あ、この面もある、というか、こっちになりたい」となったりする。

タイプを否定するより、「このタイプの不健全な出方が嫌」と切り分けたほうが、実益があります。切り分けないと、自分を丸ごと否定する話になっちゃう。「自分のタイプ嫌い」は、自分の不健全な状態を自分で認知している、というシグナルでもあります。嫌いという感情を無視しなくていい。ただ、タイプそのものと、その不健全な出方を分けて見てほしい、という話。

健全度はどう変わるのか

じゃあどうすれば上がるのか。ここに完璧な答えはありません。というか、一直線に上げ続けられる魔法はない。

ただ、一つ言えるのは、自分のパターンに気づくことが出発点だということ。「あ、いま自分は自動操縦で動いている」「あ、この反応、いつものやつだ」と気づいた瞬間、そのパターンからちょっとだけ距離が取れる。

気づかないうちは、ずっとパターンに駆動されている。気づいた瞬間、そこで初めて選択が発生する。

健全度が上がるというのは、性格を捨てることじゃなくて、性格を道具として使えるようになるということ。囚われから完全に自由になるというより、囚われに気づきながら動けるようになる、と言ったほうが正確かも。

ちなみに、成人発達理論という別の枠組みでは「発達段階」という概念があって、これと健全度は似て非なるものです。ざっくり言うと、発達段階は器の大きさ(天井)、健全度は今その器のどこにいるか(現在地)。発達段階は年単位で変わる構造で、健全度は一日の中でも変わる状態。だから「段階が高いのに、今は器を全然使えていない」ということも起きるし、逆に「段階はそんなに高くないけど、今この瞬間は器をしっかり使えている」ということも起きる。この2軸の話はここでは深入りしませんが、混同しがちなので一応。

上下で見ない

最後に、健全度の話で一番注意してほしいこと。

健全度を「上下」で見ないことです。

「健全度が高い人 = えらい」「低い人 = ダメな人」じゃない。そういう読み方をすると、エニアグラムが一気に人を評価する物差しになってしまう。これはエニアグラムで一番やっちゃいけない使い方です。

だれだって、状況によって健全度は行ったり来たりします。朝イチと深夜では違うし、余裕があるときと追い詰められているときでは違う。

大事なのは、「いま自分はどの辺にいるんだろう」と見る視点を持つこと。その視点があるだけで、自分のパターンとちょっと距離が取れる。それだけで、だいぶ楽になります。

診断結果を読んで「これじゃない」と思ったら、健全度の軸を入れて読み直してみてください。たぶん、見え方が変わります。

エニアグラムについて詳しく知りたい方へ

診断ツールや、記事を読んでも自分のタイプがピンとこない

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