エニアグラムの「健全度」とは何か
前提:タイプ確定はそもそも難しい
先に身も蓋もない話をします。エニアグラムのタイプ確定は、初見の人がWEB診断をポチッと押して「はい確定」となるような代物ではありません。 構造的に難しい。
理由をざっくり並べるとこんな感じです。
- 測りたいものが水面下にある ── エニアグラムは行動(How)じゃなく動機(Why)で人を分類します。で、動機は自分でもたどり着きにくい。同じ「人を助ける」でも、タイプ2は愛されたいから、タイプ1は正しいことをしたいから、タイプ6は仲間として認められたいから。水面上は同じに見えても、水面下がぜんぜん違う。
- 囚われは「当たり前」だから自覚できない ── 各タイプには自動操縦で回り続けるパターン(囚われ)があるけど、本人にとっては空気みたいなもの。魚が水を意識しないのと同じ。質問に答えるときも自覚できないから、素直に答えたつもりで外している。
- 当たっているからこそ受け入れられない ── タイプの解説に自分の「地雷」に近いことが書いてあると、無意識に避けてしまう。「自分はこんな人間じゃない」と。正確であればあるほど本人に響かない、というパラドックスが起きます。
- 同じタイプでもウィング・サブタイプ・健全度で別人に見える ── タイプはひとつの軸でしかない。そこにウィング、本能のサブタイプ、そして今回扱う健全度が掛け合わさる。結果、「ど真ん中の典型像」がそのまま自分に当てはまることは少ない。
- 日本文化と世代が鎧を上乗せする ── 自分のタイプ固有の囚われに加えて、文化由来の囚われが重ね着される。自分のタイプ+文化の鎧+世代の鎧、全部混ざった状態で「あなたのタイプは?」と聞かれても、そりゃわからない。
(これらの全体像は「エニアグラムのタイプ診断はなぜ難しいのか」で詳しく扱っています。)
この記事で扱う「健全度」は、その難しさの中でもとくに見落とされやすい軸です。タイプ診断で「あなたはタイプ○○です」と出たときに、「いや、自分そんな人間じゃない」と感じる一番の原因が、たいていこれ。知っておくと、診断結果との向き合い方がぜんぜん変わります。
同じタイプでも、別人くらい違う
まず結論から。健全度が違うだけで、同じタイプの人が別人レベルで違って見えます。例として、タイプ8(挑戦者)を3段階で並べてみます。
タイプ8
タイプ8
タイプ8
これ、全部同じタイプ8です。動機は同じ(弱い立場に立ちたくない)。出方が違うだけ。
ちなみに「挑戦する人」みたいなニックネームは、だいたい通常レベル(囚われが動いている平均的な状態)の振る舞いから名付けられている。だから健全寄りのタイプ8や不健全寄りのタイプ8には、そのイメージは噛み合いません。エニアグラムでタイプを数字で呼ぶのが基本なのは、こういう幅をラベルで潰さないため、というのもあります。
で、タイプ診断で「あなたはタイプ8です」って出たとき。普段の自分が通常〜不健全寄りだったら、健全な説明を読んで「いや、僕そんな正義の味方じゃないし」となる。逆に健全寄りだったら、通常の説明を読んで「いや、そんな仕切り屋じゃない」となる。
どっちも、たぶん当たってます。ただし、どの健全度を見ているかで、見え方が違う。それだけの話です。
健全度とは何か
Riso & Hudson という人たちが整理した、同じタイプの中での「状態の幅」を示すモデルです。ちゃんとやると9段階に分かれるんですが、細かく覚える必要はない。ざっくり3層でいい。
- 健全度(Level 1〜3):タイプの囚われから自由になってきている状態。自分のパターンに気づいていて、それに駆動されずに動ける。本質に近い。
- 通常度(Level 4〜6):日常的な自動操縦の状態。多くの人は、起きている時間の大半をここで過ごしています。
- 不健全度(Level 7〜9):囚われが強く出ている状態。自分も周りも苦しくなる。
数字は便宜上のもので、順位じゃなくてグラデーションだと思ってください。
「ストレスで人が変わる」の正体
よく「あの人、ストレスで人が変わった」って言いますよね。あれ、タイプは変わっていません。変わっているのは健全度です。
タイプは「傾向」で、健全度は「コンディション」です。タイプ3の人がストレスでダウンすると、タイプ3の不健全な姿が出てくる。別のタイプになるんじゃなくて、同じタイプの別の層が出てくる。
体調が悪い日も健康な日もある。でも体はずっと自分のものです、みたいな話。健全度が下がった自分も、上がった自分も、同じタイプの自分。
ストレスが深まると、別のタイプの顔が出る
ここ、さらにややこしい話をします。健全度が下がるとき、ただ自分のタイプの不健全面が出るだけじゃないんです。特定の別タイプの不健全面が借りられるような現象が起きます。
エニアグラムには「矢印(方向性)」という概念があって、各タイプには2つの方向があります。
- ストレス方向 ── 追い詰められたとき、特定の別タイプの不健全面が出る
- 成長方向 ── 健全になってきたとき、特定の別タイプの健全面にアクセスできる
| タイプ | ストレス方向(追い詰められると) | 成長方向(健全になると) |
|---|---|---|
| 1 | 4の不健全面:自己憐憫、「誰もわかってくれない」 | 7の健全面:楽しめる、力を抜ける |
| 2 | 8の不健全面:攻撃的、「こんなにしてあげたのに」 | 4の健全面:自分の感情に正直になれる |
| 3 | 9の不健全面:無気力、何もかもどうでもいい | 6の健全面:チームに誠実、弱さを見せられる |
| 4 | 2の不健全面:おせっかい、相手に依存する | 1の健全面:規律を持って行動できる |
| 5 | 7の不健全面:刺激を求めて散漫になる | 8の健全面:行動に踏み出せる、力を使える |
| 6 | 3の不健全面:虚勢を張る、表面だけ取り繕う | 9の健全面:落ち着く、他者を信頼できる |
| 7 | 1の不健全面:批判的、完璧主義的になる | 5の健全面:深く留まれる、一つを掘り下げられる |
| 8 | 5の不健全面:引きこもる、感情を遮断する | 2の健全面:他者を思いやれる、寛大になる |
| 9 | 6の不健全面:不安でパニック、被害妄想 | 3の健全面:自分から動ける、目標を持てる |
「普段は穏やかなのに、追い詰められると急に攻撃的になる」── タイプ2がストレスでタイプ8の不健全面に移動している、と読める。「普段は正しさに厳しいのに、リラックスすると急に遊び心が出る」── タイプ1が健全化してタイプ7の健全面にアクセスしている、と読める。(矢印の仕組みをもっと詳しく知りたい方は → 統合と分裂)
で、これが診断をさらにややこしくします。ストレスで出てる顔を見て「自分は〇〇タイプかも」と思っちゃうんです。本当のタイプはその矢印の根元なのに。「追い詰められたときに出る姿」と「本来のタイプ」は違う。これを混同すると、診断が迷子になります。
逆に言うと、「自分はこの矢印の先の顔をする瞬間があるな」という手がかりからタイプを絞り込むこともできる。ストレス時にやたら引きこもるなら、もしかしたらタイプ8かもしれない(→5の不健全面)。ストレス時にやたら虚勢を張るなら、タイプ6かもしれない(→3の不健全面)。
解説記事のタイプ別イメージは、健全度高めに書かれがち
ここ、けっこうな落とし穴です。
エニアグラムのタイプ別解説って、健全度そこそこ高めを想定して書かれていることが多い。なぜかというと、そのほうが「素敵そうに見える」から。「タイプ2は人を愛する優しい人」って書くと美しい。でも通常〜不健全寄りのタイプ2は、「恩を着せる/尽くしすぎて裏で見返りを求める」みたいな出方もします。
だから、診断結果を読んで「こんな綺麗な人じゃない、自分は」と思ったら、それは診断が外れているわけじゃなくて、通常〜不健全度の自分を見ているだけかもしれない。
逆もあります。「こんな酷いこと書かれてる、自分そんなんじゃない」と思うなら、解説が不健全寄りで書かれているか、自分が健全寄りで過ごしているか、どっちかかも。
自分のタイプが嫌いな人へ
これが一番言いたかったこと。
「エニアグラム診断したけど、自分のタイプの説明が嫌い。認めたくない」っていう人、わりといます。
でもそれ、よく話を聞くと、不健全度のときの自分に嫌悪感を抱いているケースが多い。そのタイプの健全度のときの姿を読むと、「あ、この面もある、というか、こっちになりたい」となったりする。
タイプを否定するより、「このタイプの不健全な出方が嫌」と切り分けたほうが、実益があります。切り分けないと、自分を丸ごと否定する話になっちゃう。「自分のタイプ嫌い」は、自分の不健全な状態を自分で認知している、というシグナルでもあります。嫌いという感情を無視しなくていい。ただ、タイプそのものと、その不健全な出方を分けて見てほしい、という話。
健全度はどう変わるのか
じゃあどうすれば上がるのか。ここに完璧な答えはありません。というか、一直線に上げ続けられる魔法はない。
ただ、一つ言えるのは、自分のパターンに気づくことが出発点だということ。「あ、いま自分は自動操縦で動いている」「あ、この反応、いつものやつだ」と気づいた瞬間、そのパターンからちょっとだけ距離が取れる。
気づかないうちは、ずっとパターンに駆動されている。気づいた瞬間、そこで初めて選択が発生する。
健全度が上がるというのは、性格を捨てることじゃなくて、性格を道具として使えるようになるということ。囚われから完全に自由になるというより、囚われに気づきながら動けるようになる、と言ったほうが正確かも。
ちなみに、成人発達理論という別の枠組みでは「発達段階」という概念があって、これと健全度は似て非なるものです。ざっくり言うと、発達段階は器の大きさ(天井)、健全度は今その器のどこにいるか(現在地)。発達段階は年単位で変わる構造で、健全度は一日の中でも変わる状態。だから「段階が高いのに、今は器を全然使えていない」ということも起きるし、逆に「段階はそんなに高くないけど、今この瞬間は器をしっかり使えている」ということも起きる。この2軸の話はここでは深入りしませんが、混同しがちなので一応。
上下で見ない
最後に、健全度の話で一番注意してほしいこと。
健全度を「上下」で見ないことです。
「健全度が高い人 = えらい」「低い人 = ダメな人」じゃない。そういう読み方をすると、エニアグラムが一気に人を評価する物差しになってしまう。これはエニアグラムで一番やっちゃいけない使い方です。
だれだって、状況によって健全度は行ったり来たりします。朝イチと深夜では違うし、余裕があるときと追い詰められているときでは違う。
大事なのは、「いま自分はどの辺にいるんだろう」と見る視点を持つこと。その視点があるだけで、自分のパターンとちょっと距離が取れる。それだけで、だいぶ楽になります。
診断結果を読んで「これじゃない」と思ったら、健全度の軸を入れて読み直してみてください。たぶん、見え方が変わります。